手っ取り早く夏を味わうには、”夏”、な映画を観ることだ。ということで、久しぶりに「フロリダプロジェクト」を観た。
前も記事にしたけれど、改めて。
この映画は、フロリダ、ディズニーランドのすぐ近くのモーテルで生活する親子の話。
projectという単語には、①計画、という意味と、②公営住宅、という意味がある。この映画のprojectは、どちらの意味も含む。①は分かりやすい、ディズニーランドを建設する時の「計画」。これだけだと、何となくハッピーなイメージがあるけど、②で生活する親子は、そんな夢の世界とは程遠い暮らしをしている。
フロリダの綺麗な空と、溶けかけのアイスクリーム、紫色のモーテル、夜のプール、オープニングで流れるkool & the gangのcelebration(お祝い)。全てが計算された”皮肉めいた”鮮やかさで、何度観ても鳥肌が立つ。
最近この映画について調べていたら、また新しく学んだことがあった。この映画は全体的に子ども目線で撮られている。子どもの目の高さで撮ったカメラの映像、といった意味合いでもそうだし、子どもの視点で捉えた世界を描いている、といった意味でもそうだ。
ムーニーとヘイリー親子の住むモーテルには、定期的に食料の配給が来る。子どものムーニーからすると、色んなパンを積んだ配給車は宝箱のようだ。なので、ムーニーがパンをもらうシーンでは、カメラはムーニーの高さにある。でも、モーテルのオーナーが、「お客が来るフロントで配給なんかされたら困る」と言うシーンでは、カメラは大人の目線になる。つまり、同じ物事でも、キラキラしたものとして捉える時はカメラは子どもの高さ、大人の心情を描く時には、カメラは上に上がる。
さらに、第三者視点で親子を捉える時は、カメラは引きになる。香水を売るシーンがそうだ。2人の親子を遠くから見守るしかない、そういうシーンでは、カメラも遠くなる。つまり、観ている人は、3つの視点でこの映画を観ることになる。何でも楽しい「子ども」の視点、迫り来る現実に苦しむ「大人」の視点、助けたいけど何もできない「第三者」の視点。
これを最近知って、ショーンベイカー監督がまた好きになった。
この映画は、好き嫌いがかなり分かれている。手放しで満点をつけるしかない、というような人もいれば、全てが不快で点数すらつけたくない、という人もいる。後者の意見の人の主な理由は、親子に品がないから、というものだと思う。冒頭からツバを吐くムーニーに、タトゥーだらけの母親ヘイリー。2人とも口が悪く、お世辞にも育ちが良いとは言えない。
映画の中で、ヘイリーが「だからあなたは貧乏なのよ」と言われるシーンがある。これに同意するか、それともなんてこと言うんだ、と憤慨するか。映画に対する意見がはっきり2極化するシーンだと思う。
ちなみに私は、こんなこと言うなんてひどい、と思った。でも実際にこんな親子がいたら、私はどう思うだろうとも思った。この映画以外にも言えることだけれど、映画を見てこう感じた、こういう視点を手に入れた、それは素晴らしい、でも実際現実で同じような状況に出会った時、その映画を観て感じたことと同じような考えができるか。自分の中にダブルスタンダードがある気がする。この映画を観るたびに、自分を省みることになる。
日本版のサブタイトルとキャッチコピーが、この映画の評価を下げている面がある(キャッチコピーですら皮肉だったらすごいけど、どう考えても文面以上の意味は読み取れないし失敗してる)。多分ハッピーな映画だと思って観る人がほとんどだと思う。この映画は、ハッピーなものではない。アメリカの現実を描いた、ドキュメンタリーに近い映画だ。
私はいまだにこの映画をどう捉えていいかわからない。人を問わずおすすめできるストーリーでもないし、おすすめしたところで、その人が「意味不明だった」と思う可能性もあるような映画だ。(特にラストシーンに納得できない人が多いみたいだけれど、あれは2人が現実から逃げて夢の世界に飛び込んだ、という意味だと思う。文字通り夢の世界ディズニーランドに行った、という意味でも、一瞬でも現実を忘れるために夢を見たかった、といった意味でも。)
私はかなり恵まれて生きてきたけど、でもそれでもこの親子を自業自得だと言うことなんかできないし、自分の常識で断罪することもできない。絶対に無理だ。
私はこの親子を救えない。でもこの親子を抱きしめたい気持ちは、初めてこの映画を観た時からずっと消えない。すべてが丸ごと愛おしい、こんな気持ちになった映画は、多分フロリダプロジェクトが初めてだ。
ちなみに、
①映画の中でムーニーが言う、「This is the life man, better than the cruise.(これってサイコー、クルーズよりいい)」と言う台詞は、私の最近の一番のお気に入りで、モットー?のようなものになっている。
②モーテルの管理人、ボビーを演じたウィレムデフォーと誕生日が同じだったことを知って、今月一のテンションに。
フロリダの眩しい太陽を画面越しに浴びて、私は今日も2人のことばかり考えている。
(今日のタイトル: celebration/Kool & The gang)
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