shut up, I love you, you’re my best friend


(以下なんとなく書いた短編小説です、暇潰しにでも②)




















「ねえ、聞いてる?」 

七月最終日。彼のイラッとした声が、夏の夜の空気に浮かぶ。ベッドに寝転がり、イエスともノーともつかない返事をしながら、私は好きなモデルの写真にいいねをするのに必死だ。「俺が一人で行くわけじゃないんだからさ、一緒に見てよ。」彼のイライラがピークに達するのが近いと悟った私はスマホをベッドに投げ、彼の隣に移動して旅行サイトとGoogle mapを交互に見る作業に加わる。

「このトンネルがさー、『ウォールフラワー』みたいでいいんだよ。エマ・ワトソンが車から身を乗り出すやつ。まあ俺はバイクだけど。」普段は大人しい彼も、私といるとよく喋る。映画と音楽の話になると尚更だ。私はそんな彼を愛おしいと思う。

彼はモテる。向かうところ敵なしのイケメンだからだ。黒髪のパーマに、片耳だけ開いたピアス。すらっとした体には、小犬のような顔がついている。それでも完全なる“可愛い”に分類されないのは、唇と舌に開いたピアスのおかげだろう。今日もかっこいいなーなんて見惚れていると、目の下にうっすらクマができていることに気付いた。きっと昨日も遅くまで勉強をしていたのだろう。彼はいつも苦労を見せないし、私の前で疲れたなんて口にもしない。だから何もかもを抱え込みすぎて、いつか消えてしまうんじゃないかと怖くなる。そんなことを考えていると思わず、「大丈夫?」という言葉が口を衝いて出てしまった。今までパソコンの画面を見ていた彼がこちらを向いた。私の目が一瞬揺れたのに気付いたのか、「何?またわけわかんないタイミングで泣くやつ?」と八重歯を覗かせて笑った。彼のことが本当に好きだ。私はその時そう強く思ったが、そんなことは口にせず、「うるさいなー」と、せめてもの悪態をつき、彼のほっぺたを潰した。彼の視線はいつの間にかまたパソコンに戻っていたが、口元が笑っているのを私は見逃さない。

時計は二十三時半を回った。八月はもう、目の前だ。






(今日のタイトル: pink skies/LANY)



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