「周りの子はみんな、もっと軽い気持ちで人と繋がって、薄っぺらい理念と強く刹那的な感情の動きで泣き喚きながら結びついたり離れたりするはずだ。だけど、理帆子さんはきっとそうじゃないんだろうね。強い理念と薄い感情の動きで人と付き合う。そんな具合」
「感情の動きは別に薄くないですよ。泣いたり怒ったりします」
「そうか。見当違いだった?」
「今でも私、誰とどこにいてもそこを自分の居場所だと思えない。私はどこにいてもどこか不在なんです」
「息苦しい?」
私は曖昧に「さぁ」と苦笑して誤魔化す。
「あの時期にこの作品がなかったら、今自分は生きてなかったかもしれない。そう考える瞬間が、僕にはあるよ。理帆子さんの気持ちが、だからよくわかる」
「本による救いの形を論じるのって、ホラー映画による青少年への悪影響を嘆く風潮と表裏一体だから、あんまり好きじゃないけど、それでも本当に面白い本っていうのは人の命を救うことができる。その中に流れる哲学やメッセージ性すら、そこでは関係ないね。ただただストーリー展開が面白かった、主人公がかっこよかった。そんなことでいいんだ。来月の新刊が楽しみだから。そんな簡単な原動力が子どもや僕らを生かす」
凍りのくじら/辻村深月
(今日のタイトル: once in a lifetime/All Time Low)
:)
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