いろんな映画を観ていると、たまに「あ、これは自分の映画だ」と思うものに出会うことがある。昨日からNetflixで配信が始まった「tick, tick... boom!」はまさにそんな映画だった。
タイトルのtick, tickとは、日本語で表すとチクタク。時計が鳴る音、時限爆弾のカウントダウンのような音、最後に待っているのは爆発(boom)。
主人公のジョナサンはNYに住む29歳のミュージカル作曲家。才能はあるけどなかなか芽は出ない。30歳の誕生日を目前に控えた彼は焦る、「早く成功しないと」、と。頭の中でいつもtick, tickという音がする、タイムリミットは近い、曲を書かないと、でも浮かばない、彼女と話さないと、でも曲を書かなきゃいけない、入院してる友達に会いに行きたい、でもどこにそんな時間が?
誰もが考えたことがあると思う、夢を追うか、身を固めるか。妥協か、頑張るか。ジョナサンは、ダイナーでバイトをしながら曲作りをしてるんだけど、ずっとこのままだったらどうしようという不安をずっと持ってる。だから、友だちが働いている会社に就職しようか、とも考える。会社で働けば、拒絶も無視もされない、やるべきことをやってお金をもらう、こんな人生もいいかも。でもやっぱり諦められなくて、常にミュージカルのことを考え続けている。
私も昔から英語が好きで洋楽が好きで映画が好きで、もうそれしかないのがわかってたから、大学の時に周りが就活をしてる間もしなかったし、会社に就職もしなかった。すごく傲慢なのはわかってるし、でもそれを諦めて関係ない仕事をする勇気はなかった。でも一方で、劇中にジョナサンが歌ってた、「ずっとミュージカルをする、そんな人生を送るんだと子どもの時に決めた。でもそんな人生を送る才能が自分にあるのかはわからない」、という気持ちもあったし、今もある。今はようやく少し翻訳ができてるけど、劇場版レベルの作品に携われるようになるのかはわからないし、このまま中途半端だったらどうしよう、とも思う。でも捨てられない、夢見てしまったら、もうここでやるしかない。信念、と言ったら大袈裟かもしれないけど、それを捨てるのも無理。だから、どんなに苦しくてもやるしかない。そこがジョナサンとすごく重なって、苦しかったけど救われた。
彼はもう本当に文字どおり、身を削って曲を書く。電気代を払えないくらい生活は困窮してるけど、でも書かないといけない。私も自分を追い込むタイプで、そのたびにいつも自分で馬鹿だなと思うんだけど、でもこれしかできないんだよね。周りからも何でそんな苦しむの?って言われるけど、これしかできない。こうすることでしか自分を納得させられないし、自分を満たせない。自分で決めたことを貫くには、これしか方法がない。そうしなきゃ、って義務でやってるわけじゃなくて、もうこれしか知らないの。ジョナサンも全く同じタイプで、自分を見てるようで胸が何度も抉られました。「なぜこんなことをしてるのか、ただ日々をやり過ごすだけでも生きていけるのに」、っていう台詞(正確には歌詞)が出てくるんだけど、ここで死ぬほど泣いたし、今も泣いてる笑。めっちゃわかるんだよね、なんでこんな苦しんでるんだろ、もっとただ目の前のことだけ楽しんで生きればそれでいいのに、って。でもそんな生き方はできない、許せない、というほうが近いかもしれない。だからやるしかない。私はもう物心ついた時からずっとそういう気持ちで生きてる気がする、執念というか、悔しさというか、それとずっと闘ってる。
こういう考え方とか生き方って、こうやって映画にされてこそ「夢を追って純粋で素敵!」ってなるけど、一種の狂気やと思ってるから、私はこの映画に本当に救われました。これでいいんだ、大丈夫だ、と思えた。本当に観てよかった映画。私をわかってくれる人がここにいたし、人生丸ごと肯定された気がした。泥臭くても夢を追うことはやっぱり素敵だし、(肩の力を抜くことは忘れずに)今までどおり生きようと思う。
めちゃ暑苦しいこと書いたけど、映画としてはミュージカルなので楽しいです。曲が全部よくて、すぐサントラDLした。ダイナーで歌うシーンがあるんだけど、「日曜日に皆が食べにくるせいで俺たちは忙しい、家で食べればいいのに愚か者ばかりだ」、みたいな歌詞で面白いです笑。普通の映画だったら修羅場みたいなシーンも、ミュージカルだったら歌でエンタメにしちゃってるし、なんでも作品にしてやる、っていう彼の覚悟みたいなのも感じられてよかった。とにかく総じて最高な映画でした。2021年ベスト映画はこれです。映画ってやっぱり素敵ですね、
(今日のタイトル: louder than words/「tick, tick...boom!」soundtrack)
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